すずめの戸締まり 賛否両論!? でも割と納得の高評価レビュー!(ネタバレあり)

早速ですが、新海誠監督の最新作「すずめの戸締まり」をレビューしていきます。
一言でいうと、2013年公開の新海監督の「言の葉の庭」以来の強いメッセージ性と深い人間心理に魅力を感じ、個人的には割と高評価です。
私が新海誠監督の作品の中で一番好きなものは、2007年公開の「秒速5センチメートル」で、いわゆる”秒速”信者ですので、同じような方は一見する価値ありかと思います!
ただし、ジブリ作品のオマージュの多さや、3.11の取扱い、ファンタジーな世界観など、気になってしまう方もいるかと思います。
そんなわけで、本作品の魅力や少し気になってしまったところなどを紹介していきます!

本記事は、以下の内容で構成されています。

本作品の魅力

それでは、早速、本作品の魅力を紹介していきます!

小説版をご覧いただくと、本作品の考察がより深まると思います。

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また、「言の葉の庭」や「秒速5センチメートル」をはじめとする新海誠監督の作品は、U-NEXTにてご覧いただけます。

美しい風景

私が今更言うことではないですが、新海誠監督作品だけあって、やはり風景がとても美しいです。
特に美しかったのが、死後の世界と言われる、常世。
私の一番好きな「秒速5センチメートル」を彷彿とさせる美しい桜色の空が印象的でした。
とにかく一つ一つの描写が繊細で丁寧で、風景を見ているだけで、映画として成立します。
これは、新海作品以外ではありえないことで、新海誠監督の作品が魅力的であり続ける理由だと思います。


ジブリ・オマージュ

ここは、賛否が分かれるポイントの一つだと思いますが、明らかにジブリ作品を意識している描写が多いのが本作品の特徴です。
個人的には、単なるパクリや結果的に似通ってしまったものではなく、敬意をもって明確にオマージュをしていると考えていますし、新海監督自身も宮崎駿監督の影響を強く受けているようです。
私が気づいたのは、以下のジブリ作品です。(他にあればコメントください。)

1.「千と千尋の神隠し」
冒頭の草太を探すシーンの温泉街は、明らかに千と千尋の神隠しの温泉街が意識されていました。
また、すずめと草太の関係も、千と千尋の神隠しの千尋とハクの関係に近いと考えられます。
・千と千尋の神隠しでは、千尋が龍となっているハクを救い、すずめの戸締まりでは、すずめが椅子の姿になった草太を救います。
・両親のいない世界で、主人公の千尋(すずめ)が、ハク(草太、イケメン)にあこがれを抱きつつ、その世界で生きる方法を教えてもらいながら、必死に戦っています。

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2.「ハウルの動く城」
扉の向こうに異世界(本作品では”常世”)が広がり、過去とつながっているという世界観は、ハウルの動く城の”扉”を意識していると考えられます。
個人的には、扉を閉めて世界を救うという”動作”そのものは、アクションとしてあまり強くないかなという印象なので、ハウルの”扉から異世界”の意識が入っているのではないかと考えています。

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3.「魔女の宅急便」
これは、皆さんお気づきかと思いますし、新海監督自身も影響を受けているようです。
車ですずめの故郷に向かう際に、魔女の宅急便の主題歌である松任谷由実さんの「ルージュの伝言」が印象的に登場しました。
また、猫との冒険の中で、様々な人々と出会い、主人公の少女が成長していくという世界観も、魔女の宅急便と同じです。

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4.その他
「耳をすませば」や「もののけ姫」も巷ではオマージュに挙げられていますね。

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深い人間心理(”選べない人間関係の難しさ”)

個人的に本作品の最大の評価ポイントは、本作品におけるすずめと環さんの関係(=すずめとダイジンの関係)です。

  • すずめと環さん

まず、主人公のすずめは、4歳のときに、3.11(東日本大震災)で両親を失っています。
すずめの叔母さん(お母さんのお姉さん)である環さんは、28歳という人生で最も自由な(とされる)時期に、その自由を捨て、姪である4歳のすずめの面倒を見ることになります。
環さんも作中で近いことを言っていたかと思いますが、自らの選択とは言い切れない状況(無下に切り捨てることのできない親族)で、28歳にして一人の子供を抱え自由を失うというのは、様々な苦労があったことが想像されますし、妹の子供である以上、責任をもって育てなければならないという強い責任感もあります。(そのため、過保護になってしまっています。)
すずめにしてみても、身一つで育ててもらったことに感謝をしつつも、様々な苦労をかけてしまったことに罪悪感を感じており、また、本当の両親でないことや過保護であることを気にしています。
このように、すずめと環さんの関係は、選べない人間関係の中で、お互いに気を使いながら成り立っている難しい関係と言えるでしょう。

  • すずめとダイジン

続いて、すずめとダイジンの関係です。
ダイジンは、すずめに優しくされると、喜んで身体が回復し、逆にすずめに冷たくされると、萎えてゲッソリします。
また、ダイジン初登場のシーンで、すずめがダイジンに言ったセリフは、「うちの子になる?」です。
また、ダイジンには、すずめと草太が親密になっていくことをよく思っていない、つまり、すずめを独占したいという思いがあります。
もうお分かりかと思いますが、すずめとダイジンの関係は、すずめと環さんの関係(育て親と子)を表しているといえます。

  • ダイジンの役割

以下、本作品におけるダイジンの役割を考えるにあたって重要な場面です。
物語の後半で、すずめの故郷の後ろ戸をくぐるシーンがありますが、その際に、すずめは、すずめたちが後ろ戸を見つけるために、実はダイジンが協力してくれていたということに気づきます。
本作品のメインストーリーは、ダイジンを探して、後ろ戸から出てくる巨大ミミズを封印することです。
物語中盤までは、ダイジンが後ろ戸を開けて、巨大ミミズを解放しているように思えましたが、実際は、ダイジンは、すずめたちを後ろ戸に導いて、巨大ミミズを封印するために協力してくれていたのです。

  • 難しい人間関係

このようなダイジンの役割は、環さんのすずめの親としての役割に通じる部分があります。
すずめは、本当の親ではなく、また、過保護で、気を使ってしまう環さんに嫌気がさしてしまっている部分があります。
そして、車ですずめの故郷へ向かっている最中に、そんな環さんに対し、本音をぶつけてしまいます。
また、環さんの方も、左大臣の影響を受けているとはいえ、すずめに対し、かなり厳しい本音をぶつけてしまいます。
なんとなく分かっていても、言葉として発せられてしまうと、やはり傷つきますね!笑
やはり言葉は凶器です。取り扱いには十分注意を払いたいところです。笑 というのをストレートに感じる印象深いシーンでした。

しかし、実際には、環さんは、すずめを正しい方向に導くために、責任感を持ってすずめを育てています。
環さんは、すずめにとっては(なんでそんなに過保護になるのかなど)その目的が見えないながらも、実際には常にすずめのためを想って行動してくれているのです。
このように、人間関係において、相手がどのような目的で動いているのかを理解することができない場合であっても、実際には、相手は自分のことを想って必死にその役割を全うしてくれていることがあるのです。(会社における上司と部下の関係なんかも、これに近いのかなと思っています。)

また、本音をぶつけ終わった後の、すずめと環さんの関係には、救われるものがあって、印象的でした。
自転車ですずめの故郷に向かうシーンで、環さんがすずめに対し、「それだけじゃないのよ」と言うシーンがあります。(記憶が曖昧ですので、間違っていたらすみません。)
このシーンの良いところは、左大臣の影響で口に出してしまったすずめに対する厳しい本音を、決して否定することなく、それだけじゃないと正直に伝えているところです。
本音は本音でたしかにその通りだけど、環さんもすずめに助けられている場面がたくさんあるのだと思います。
このシーンのおかげで、作品全体が嘘っぽくならずに、人間関係はたしかに難しいけれど、本音をぶつけあって、相手の良いところを見つけて、お互いに成長していけるというような、作品のメッセージにつながる重要なテーマを感じることができますね。

強いメッセージ性(”苦しくても生きてればよいことがある”)

ここも、少しありがちなメッセージともいえるので、賛否が分かれるポイントの一つだと思いますが、個人的にはこのようなわかりやすいメッセージは、ダイレクトに響くので好きです。

この作品の重要なメッセージは、物語の終盤、常世で高校生のすずめが4歳のすずめに対して語るセリフにあると思います。
たしか「すずめはちゃんと大きくなる」といった内容です。
厳しい現実が目の前にあるのは事実だけど、頑張って生きていれば必ず大きくなるし、いいこともたくさんある。
”明けない夜はない”みたいな感じです。

このメッセージは、3.11などの災害で直接被害に遭われた方に対するメッセージでもあるかと思いますが、広く普遍的なメッセージでもあると個人的には想っています。
やはり生きていくのは辛いもので、特に辛いときには、このまま生きていても良いことなんてない、死んだ方がラク、と考えてしまうこともあるものです。
特に昨今では、コロナも終息しつつあり、コロナ前の日常を取り戻そうと思えばできるかもしれない一方で、コロナからの脱却という厳しい局面だからこそ踏ん張れたという方にとっては、夢も希望もない退屈な毎日が待っているように感じられる場面もあるかと思います。
そんな中で、すずめの”苦しくても生きていれば必ずよいことがある”みたいなストレートなメッセージに救われる方もたくさんいるのではないでしょうか。

少し気になってしまったところ

以下、少し気になってしまったところを挙げたいと思います。
ただし、口述しますが、ファンタジーかつ老若男女を対象とするエンタメ作品であり、また、3.11というテーマの難しさから、ツッコミどころが多少あるのも仕方ないものと思っています。
もちろん映画作品なので、批判しようと思えばいくらでもできてしまいます。
私は、この素晴らしい世界観を見せてくれた新海誠監督には、心から感謝したいです。

ファンタジーすぎる、冗長な展開

やはり”秒速”信者からすると、ファンタジー過ぎる展開が少し気になってしまいました。
椅子はどのように言葉を発するのか、どのようなエネルギー源をもとに動いているのか、椅子に長時間の睡眠は必要なのか。
ファンタジーであり、かつ、老若男女問わず見れるエンタメとして作られているものかと思いますので、気にしても仕方のないことですが、やはり新海誠監督には繊細な描写を期待しているところではありますので、設定の粗い部分が気になってしまいました。

また、少し展開が冗長にも感じました。
個人的には、後半の深い人間心理とメッセージ性に強く惹かれる作品でしたので、前半のファンタジーな展開を冗長に感じてしまい、映画の前半を見ているときには、正直新海誠監督の作品を見るのは最後になってしまうのではないかと心配になりました。
後半の深い人間心理とメッセージ性が素晴らしかったので、心理描写や伏線回収の部分にもう少し時間を割いてほしかったところではありました。

伏線回収の仕方(”救世主は自分でした”)

物語の終盤、常世で、4歳のすずめを救ったのは、なんと高校生のすずめでした。
本作品のメッセージにつながる部分でしたし、上手く伏線を回収して物語をまとめてくれたことは、素晴らしいことと思います。
しかし、やはりご都合主義と言われてしまう可能性もあるラストだったといえるかもしれません。

  • 親殺しのパラドックス

親殺しのパラドックス、、そうです、クリストファー・ノーラン監督の「TENET」でも話題になっていた、過去に遡って親を殺したら、現在の自分はどうなってしまうのか、という問題です。
仮に、常世で、4歳のすずめを救うことができなかったら、高校生のすずめは、日本は、世界は、どうなってしまっていたのでしょうか。
このようなタイムトラベルものが抱えるカオスな問題をそのまま引き受ける形になってしまったので、その辺の問題を議論することが好きな方にとっては、多くを語らない後半の展開が、批判の対象となってしまうこともあるのではないでしょうか。(私が批判しているものではありません。)


  • 4歳の少女

また、他に気になってしまったのは、年齢設定です。
4歳という年齢は、意思決定の余地があまりない年齢であるかと思います。
3.11の際、両親がいなくなってしまったすずめにとって、生きて両親を探す以外の選択をすることはなかなか難しい場面であったかと思います。 
ここで気になってしまったポイントとして、4歳のすずめが、仮に、常世で高校生のすずめに声をかけてもらっていなかったとしても、今後のすずめにはもしかしたらあまり影響がなかったかもしれないということです。
なぜなら、高校生のすずめは、過去に未来の自分に声をかけてもらったことや椅子をもらったことなどを覚えていないともいえるからです。
これが、仮に、たとえば14歳の少女などであれば、未来の自分に声をかけてもらったおかげで、”自殺を選ばずに済んだ”、あるいは”未来に希望が持てた”など、影響が大きかったかもしれませんが、4歳のすずめにとってみれば、生きて両親を探す以外の選択肢はなかったともいえるかと思います。

  • 既視感

自分を救ってくれたのは、自分自身でした。
どこかで見たことがありますね。
そうです、私も大好きなハリーポッターです!
具体的には、2004年公開の「ハリーポッターとアズカバンの囚人」で、ディメンターに襲われるハリーに対し、守護霊の呪文をかけてディメンターを退治してくれたあの男です。
作中では、ハリーは、自分を救ってくれたあの男を、ハリーのお父さんと思っていましたが、実際には、タイムターナーというタイムマシンのような道具で過去に戻ったハリー自身でした。
まさに、自分を救ってくれたのは、自分自身だったんですね。
このように、ラストの展開に既視感を感じてしまう方もいたのではないでしょうか。


3.11

根本的な問題にもなってしまう部分かもしれませんが、よく考えてみると、本作品において、3.11を取り扱う必要はあったのだろうか、という疑問が沸いてしまいました。

3.11で直接あるいは間接的に被害に遭われた方などが本作品を通して、”生きる希望などが湧いた”、”明日から頑張れる”など希望や勇気を享受することができたなら、それは本当に素晴らしいことだと思います。
ただ、3.11を取り扱うにしては、テーマが少し弱く、中途半端ではないかなと感じてしまいました。
個人的には、3.11は、地震はもちろんですが、放射能による故郷の喪失や、電力不足による計画停電、津波による被害などを含めて、総合的に未曾有の災害と捉えられていると考えるため、本作品のような扱い方では、関東大震災などの他の震災とあまり変わらないのではないかと感じてしまいました。
3.11を取り扱う前提であれば、もっと直接的であったり、3.11特有の事情が表現されていても良かったのではないかと感じました。(被害者感情を最大限に考慮した結果であるとは思いますが。)

まとめ

上記の通り、少し気になってしまったところもありますが、新海作品ならではの美しい風景描写、ジブリ作品へのオマージュ、すずめと環さんの関係に見られる深い心理描写、ラストの強いメッセージ性など、見どころ満載の作品です。
私のような”秒速”信者でも楽しめる部分がたくさんあるかと思います。

「秒速5センチメートル」をはじめとする新海誠監督の作品は、U-NEXTにてご覧いただけます。

また、ご自身でより深い考察をされたい方は、ぜひ小説版を購入してみてください。

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